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「新・失敗学」畑村洋太郎・著~竹末の読書メモ➁

▲「新失敗学」畑村洋太郎(講談社)

■第2回目の書籍紹介です。
今回は、「新・失敗学」畑村洋太郎著・講談社(2022/5発行、¥1700+税)を紹介しましょう。
著者の畑村洋太郎氏は1941年生まれで、東京大学・工学部の機械工学修士課程を修了後、2年間㈱日立製作所に勤務されました。その後東京大学に戻られ助手を経験の後、定年退官されるまで教鞭を執られた方です。2004/3にはボランティアで、六本木高層ビルの回転ドアでの6歳男子死亡事故究明に尽力されたり、2011年の東日本大震災での原子力発電所の事故調査委員を担当されたりして、「人間はなぜ失敗するのか?」についての研究を続けられてこられました。

2001年(小生が大学に赴任した頃)に、ちょうど2000年発刊の「失敗学のすすめ」(講談社)を読んで、感銘を受けた一人なのですが、今年の5月にこの「新・失敗学」が発行されたのを機会に、あらためてじっくり読ませていただきました。特に、デザイナーに共通する発想法や、概念をモデル化する手法なども参考になりますので、ぜひクリエイティブなお仕事をされている方々にもお勧めしたい著書です。

まず、『失敗』というのは「人間が関わっていったことで、初めに想定していた目的を達成できないこと」と定義しており、それを学問にした上で、「人間が活動すると必ず起こる失敗を積極的に捉え、原因を究明することで次の行動に活かすこと」を研究されてこられました。

大部分の人間は「失敗をしたくない」と思い、万一失敗した時でも、「恥ずかしい」とか「昇進に影響するから」とかを考えて、隠したり、他人に原因を押し付けたりするものなのですが、「良い失敗」は「失敗をバネに」とか「失敗を糧に」という考えをもって、大きく成長するタネが見つけられる、と述べています。なかなか、そういう考え方、行動に至らないのが人情なのですが・・・。
最近のニュースを見ると、政治家や会社役員が不祥事を起こして、言い逃れをしている場面に遭遇することが多くなったような気がしています。その要因のひとつには、優等生が上に就く組織が多くなったことが考えられるようです。

この本に、「偏差値が高い(だけの)人は、誰かがすでに解いている既知の問題には強いが、解法パターンが通用しない、自力で解かなければならない問題に対処する力が弱いということが、しばしば起こる」と記されています。また、「優秀さには二種類あって、一つは優等生タイプで、知識量や解答に至るまでのスピードが速くミスが少ないタイプである。そして、もう一方には「ものごとの本質」を突き詰めて考えるタイプがある。後者の人は受験生の頃に、数学の証明問題や物理の問題を、最初はわからない問題を自分で一からすべて解いてみる訓練をしていたようである。つまり公式暗記ではなく、解法を自力で考える癖を付けた。」とタイプ分けをしてありました。

実は、小生はけっして優等生ではありませんでしたが、父の影響を受け、数学が好きでした。なかなか二次方程式の解の公式が覚えられず、いつも因数分解しながらコツコツと解く癖があったことを思い出しました。それが高じて円周率の「Π=3.14159…」を、電卓も無い時代に、自力で近似値を求めた覚えがあります。おそらく三日三晩掛かって、円の面積を細い三角形に分解して近似解を探し求めていたようです。今から思えばバカなことに時間を費やしていたなと思いますが、著者の畑村先生に言わせると、良い経験をしていたのかもしれませんね(^^; 最後に、著者自身も「しかし時間が掛かるので、結局浪人をした」というオチが着いていましたが・・・。

1990年ころまでは、大学受験も、入社試験も『優等生選抜文化』が横行していたようです。ちょうどバブル経済が弾ける高度成長期前までのことでしょうか。「入社時よりペーパーテストで成績が良い人材を採用し、その後も課題に素早く正解でき、なおかつミスも少ない人材を評価し、そうした人たちが組織の幹部になって行く。ただし、目標とやるべきこと、つまり『正解』がはっきりしている場合は、非常に効率的運営ができる。一方で、『正解』がはっきりと分からない場合や、大きなトラブルが起こった場合、こうした人材ばかりの組織はその弱点を露呈する。」と、採用試験のあり方についても戒めておられます。

今は「正解のない時代」ではなく、「正解がたくさんある時代」である、とも言われており、たとえば新商品を世の中にリリースする場合にも、売れるか売れないかが誰にも分からない時代になっており、過去の事例や、他社のヒット商品をトレースしても必ずしもヒットする確証が持てない時代になってきているのだろうと思います。

畑村氏の言に「三現法」というのが紹介されています。「現地」「現物」「現人」のことなのですが、「現地」は現場まで足を運ぶこと。「現物」は、実際のものを直接見たり、触れたりすること。「現人」は現場に居る人の話を聴いたり、議論をすること、だそうです。当たり前のことかもしれませんが、昨今のコロナ禍の影響を受け、リモートで仕事ができるようになって、上記の「三現」が失われつつあることが心配になってきます。

最後に、またデザイン思考のプロセスに類似する「仮説の立て方」についても、下記のような3点が重要であると述べておられます。
1、「価値について考える」…価値は、時代や社会によって変化している。個人や企業、そして社会、世界にとって常に変化し続ける価値目標を見失ってはならない!と・・・
2、「想定外を考える」…これは「失敗学」の根幹に当たるところなのですが、想定外は「考えなくて良い」ではなく、「考えの抜け」を発見するための「思考過程」で、コンセプトを検討する上で、非常に重要な点であると強調されています。つまり「枠の外にあふれるものが必ずある」ということを念頭に、時間が無いから、お金がないからと、思考停止(回避)するのではなく、場合によっては実験までしておけ!と・・・
3、「時間軸を入れて考える」…世の中は常に変化している(上記の価値は内容であるが、こちらは時間が経つと人間は忘れるという意味で重要視されているようである)⇒「3」がキーワードで3日、3か月、3年、30年、60年、300年、1200年・・・おそらく、地震の周期を念頭に置かれているのだろうと推察されます。

畑村氏も現在は80歳を超えられ、流石にAIやDXの時代に色々な団体のリーダーとして旗振りをすることには憚れると思われているのか、得意なところは後輩に任せることも重要である、というような箇所もあったので、自分自身への戒めとして心しておくようにと言われているように感じました。

(筆者・竹末俊昭…一般社団法人ファブデザインアソシエーション(FDA)理事長・元拓殖大学工学部デザイン学科教授)

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